2月25日・26日に大阪府豊中市で開催された、ひきこもりにかかわるイベント「若者当事者全国集会」のレポート(2/3)です。
第1部ーPart2
- 「居場所は「場所」ではなく「人」」下田つきゆびさん:つきゆび倶楽部(高知)
- 「『農』は『生きている、生きていける』という実感を持てる」児島一平さん:NPO法人みんなの未来かいたく団(大阪)
- 「当事者が地域の中で果たしていく役割は、専門職と同じくらいの力を持っている」田中敦さん:NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク(北海道)
- 「ひきこもりという負の経験の価値の転換をはかっていく」木村ナオヒロさん:ひきこもり新聞(東京)
「自分の人生は、オリジナリティにあふれるエンターテイメント」/下田つきゆびさん<つきゆび倶楽部(高知)>
下田さんは、1983年生まれの33歳。家庭内不和により1日4~5時間しか睡眠時間が取れない日々が一年以上続いたため、下田さんは中2の夏休み前に不登校となり、一年遅れて定時制高校に通います。そのころからひきこもりがちな生活になりました。
兄は精神を病み、母は仕事と家事で手一杯、父は借金を重ねて、下田さんが20歳の時に自己破産。話を聞くと悲惨なように聞こえるかもしれませんが、下田さんとしては自己破産によって「区切りがついた」と気持ちに余裕が出てきたんだそう。
(「つらいことも悲しいことも、それも含めて人生エンターテイメント」という下田さん。)
30歳を機に地域のひきこもり支援機関や病院に行くようになり、病院では強迫性障害とADHDと診断されました。31歳で「つきゆび倶楽部」という表現活動を始めます。
(「つきゆび倶楽部」 冊子 裏表紙。本人提供画像)
そして、このイベントの主催者の一人である泉さんに、「コミックマーケットに同人誌を出しませんか?」と誘われ、ひとりで企画した同人誌は「全国のひきこもりの家を訪ね、その部屋の写真撮影」などが収められた150ページの大作。全国各地で60冊売れたと言います。
表現活動するとドン引きされることも多いけど、抱きしめてくれたり泣いてくれたり笑ってくれたりしたときに「自己肯定感」が生まれる。
そういうときに生まれてきてよかったなあと思うんです。
居場所は「場所」ではなく「人」です。
(主催の)泉さんがいてくれたらどこであっても、僕にとっては「居場所」。
全国各地にそういう人がいるので、そこが「居場所」。
僕が死にたいと思ったときでも、その人たちが「この世で生きている」という事実だけで今日を生きられるんです。僕にも居場所があるんだなとよく思わせてもらっています。
「学校なんて命かけていくところじゃないな。仕事なんて命かけていくところじゃないな。手段の一つであって目的ではない。悩んだら迷わず命を選びなさい。」と思ってます。――
でも僕が自分の口から言うと、その軽さも同時に感じるんです。
同じことを先生や上司や親が言ってくれたらいいのにと思います。
学校、仕事は重要だけど、数ある手段の一つに過ぎません。
「自分が言う」ということが、いつか「重さ」になったらいいなと思います。
下田つきゆびさん(つきゆび倶楽部)
(KHJ高知県やいろ鳥の会などで活動されています )
――
「農」は「生きている、生きていける」という実感を持てる/児島一平さん<NPO法人みんなの未来かいたく団(大阪)>
46歳の児島さんは、リサイクルショップ会社の代表取締役でありながら、耕作放棄地の開墾、持続可能なコミュニティの開発、ひきこもり経験者と農作業の実施などを行う「みんなの未来かいたく団」の代表です。(「NPO法人みんなの未来かいたく団」の児島さん)
「みんなの未来かいたく団」では、大阪近郊の耕作放棄地を開拓・開墾して「自然と都会人」とをつないだり、農業体験をしたりするイベントの開催など様々な農的取り組みをおこなっています。
また、これら「土地の再生」を通して「人の再生(ニート・ひきこもり問題などに対する提案)」「物の再生(廃棄食品・資材などに対する提案)」をおこなっていき持続可能なコミュニティを提案しています。
児島さんは高校時代に不登校に。高校を卒業後就職しますが、その年の12月に嫌気がさしてひきこもりになります。当時の社長がいい人で、「きみは余裕がない。大学に行って4年間遊んで来なさい」とアドバイスを受け、大学を目標にし、合格します。
大学生活は謳歌していたものの、大学時代の友人にはひきこもり経験を話せなかったという児島さん。大学には5年通い、就職しますが、33歳で勤めていた会社が潰れてしまい、失業をきっかけに起業しようと思いたち、リサイクル品の買い取りを始めます。
「起業して自分の人生を生きていると感じ始めた時にやっと高校時代にひきこもっていたということを人に言えるようになった。」といいます。
そしてNPOを立ち上げ、耕作放棄地の再生をするようになりました。
なぜ「農」なのか?農は食とすごく連携しています。人間が生きていくうえでの基幹を担っています。食べ物があれば生きていけるんです。…ということの、ゆるやかな実践です。 自分が自分の食べるものを作っていけると思うことはとても大事なことで、生きている、生きていけるという実感を持てるんです。
(みんたくブログより)
土に触れる、太陽に当たる、体を動かす、自然の中で過ごすということには、心身へポジティブな影響があると思います。
だから耕作放棄地再生や農は、ニート・ひきこもり自立支援と非常に相性が良いと思っています。 こんな事やってる人もいるよ、ということで興味があればお声掛けください。
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NPO法人みんなの未来かいたく団
http://ameblo.jp/mintakudann/
https://www.facebook.com/mintakdan/
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「当事者が地域の中で果たしていく役割は、専門職と同じくらいの力を持っている」/田中敦さん(NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク(北海道))
田中さんは、従来の支援者や親の立場ではなく当事者の立場からの支援や、メディアを使った広報活動もされています。著書には「苦労を分かち合い希望を見出すひきこもり支援-ひきこもり経験者を活かすピア・サポート」等があります。
北海道はその広大な土地ゆえに、札幌市だけに拠点を置いたり一団体だけで広域な北海道に取り組んでいったりするのは難しいため、社会福祉協議会、ボランティアセンターといった関係団体と連携を取りながら活動しなければなりません。
異なる支援活動も互いに活動実践を結びつける仕組み、ポータルサイト、リソースマップ、協議会など、それぞれで主体的な動きがあるわけですが北海道でもこの活動を参考にさせてもらって連絡協議会を立ち上げました。異なる団体が有機的につながっていく、バックアップするという後方支援的な取り組みを昨年10月に始めたんです。
(「NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」の田中さん)
*北海道ひきこもり支援ハンドブック、会報「ひきこもり」有識者インタビューの連載に新規のインタビューを追加して、「ひきこもる心のケア―ひきこもり経験者が聞く10のインタビュー (世界思想社)」という書籍も発行されています。
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レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク事務局
〒064-0824 北海道札幌市中央区北4条西26丁目3番2号
090-3890-7048(携帯)
http://letter-post.com/
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「ひきこもりという負の経験の価値の転換をはかっていく」/木村ナオヒロさん「ひきこもり新聞」(東京)
ビッグイシュー305号の特集「出(しゅつ)ひきこもり」にも登場いただいた、ひきこもり新聞編集長の木村ナオヒロさん。「当事者による当事者のためのメディア」として2016年11月に創刊したひきこもり新聞は、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)主催の「ジャーナリズムイノベーションアワード2017」で優秀賞を受賞。メンバーのほぼ全員がひきこもり経験者という「ひきこもり新聞」が生まれた経緯や新聞に込めた想いを話されました。(「ひきこもり新聞」の木村ナオヒロさん)
大学を卒業して司法浪人をしていた木村さん。自分は単なる「無職の浪人生」という認識で、外出もできていたので、自分をひきこもりとは認識していなかったそう。ところが精神科医の斎藤環さんと出会い「君はひきこもりだ」と断言されたという。
抵抗を感じ押し問答をしたものの、ひきこもりの本や体験談を読むと、やはり自分はひきこもりだったということがわかった。そして斎藤さんのところで「オープンダイアローグ」という手法のカウンセリングが始まり、木村さんの生活は変化していった。
(オープンダイアローグについては、ビッグイシュー305号の特集をご覧ください)
なんでひきこもり新聞を始めたかというと、ひきこもりに対して、無理やり家から引きずり出し、拉致・監禁も辞さないなどの暴力的支援団体がテレビで持ち上げられて、「ここで異議を唱えなければならない」と思ったからなんです。
でも、異議を唱えるメディアがなかった。
乱暴ではない、掬い取るべきなのは当事者がほんとうに理解してもらいたい言葉、共感してもらいたい言葉を救い上げて伝えていくべきで、それがいまひきこもっている人への癒しになるのではないかと感じたんです。
ひきこもり経験という負の経験として捉えられているものの価値の転換をはかっていくというか、語られてこなかった負のイメージがあるからこそ語られてこなかったというのがあるけど、当事者の声は誰かを救う、癒す可能性のあるものだと思っています。
ひきこもりのイメージを変えたいんです。―――
部屋に閉じこもっていて、一歩も外に出ないというイメージだったのを、見た目も普通だし、一般の人となんらかわらない「人」。
職を追われた、学校辞めたというほんのちょっとの違いだけで、ひきこもりになりうるということを伝えたいんです。
ひきこもりというレッテルを張って差別するんじゃなくて、うつや風邪のように誰でもなるという理解を広めたいと思っています。
ひきこもり新聞
隔月発行。購読は誌面・データの2つから選べる。
当事者価格100円、定価500円、応援価格2000円。
http://www.hikikomori-news.com/
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木村さんが紹介されたビッグイシュー305号。
特集は「出(しゅつ)ひきこもりー”対話”へ」です。
バックナンバーは3冊以上で通信販売も可能です。
http://www.bigissue.jp/backnumber/index.html
■第1部 (Part1)を読む
■第1部-Part3&第4部のレポート<それぞれの世界へ羽ばたくひきこもり当事者・経験者たち~ひきこもりの全国集会より(3)~>はこちら。
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▼このイベントの主催者にインタビュー
「ひきこもり・不登校経験者2人にインタビュー。ひきこもったきっかけと、ひきこもり状態から出てきたきっかけ」
「大阪・豊中で開催される「徹夜のひきこもり全国集会」。企画の経緯と想いとは」
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